某日、渋谷のとあるカフェにて
ある日。出演
金盞游水
朔日隼人
———
「お、いたいた。相変わらずここに良く居るね〜」
「あ、金盞さん」
人が行き交う交差点を過ぎて少し歩いたところ。高層ビルと蛍光色の電灯が点かない日の当たる喫茶店。電子機器を弄りながら男性は女性の声に顔を上げた。
「まーたここでやってんの?好きだね〜」
「いやぁ、何でだろうね。最近ずっと入り浸っててさ。」
「最近?前からじゃないの?」
話しかけてそのまま相席する女性は煙草を取り出し火をつける。男性をそれを一瞥してコーヒーを飲む。苦いとも甘いとも言えない微妙な味わい。ただ後味が好きだから、その温度が何処かで感じたものだったから、この喫茶が渋谷にあったから、ここのコーヒーを飲む。それだけの話。
「で?また新しく賭けしたんだって?どうだったの?」
「うわそれ今聞く?やめてよ、ボロ負けだって」
「またぁ?やっぱあの時大人しく伝授聞いといた方が良かったんじゃないの?」
「いや、そこは自分を信じてやるものだから。それが賭けの極意ってもんじゃない?」
負けてる人に言われてもな〜...と自前のティッシュで手を拭きながら、やってきたミルクティーを煽る。いや煽って良いのかこれ。
締まらない会話をしていると、ふと男性の視界の端に何か黒い人影が映る。見覚えがある気がしてその方向へ視線を向けても誰かいるどころか該当する人間はいない。皆疎らで制服を着たりスーツを着たり。歩く大衆がそこにいた。
「どうしたの?」
「...いや、何でもないよ」
そう答えてカップを見た。飲もうとして傾けても出てこず、よく見ると中にはもう液体はない。何やってるんだろう、と静かに置く。
「それにしてももうハロウィンかぁ、仮装する?」
「しないしない、そんな年齢じゃないですし」
「えぇ?似合うと思いますけど?」
「しないって」
そんな会話をして、午前の緩やかな時間が過ぎた。